2020年、東京でオリンピックが開催されます。世界最大規模のスポーツの祭典ということで注目度は非常に高く、楽しみにしている方はとても多いのではないでしょうか。
その一方で会社勤めの方にとっては一つの恐怖が待ち受けています。 そう、朝の満員電車の激増です。一説によると、「乗車率200%の電車が1.5倍に増える」とも言われているようです。つまり現時点で、通勤時間が長くなることで業務に支障をきたすことが目に見えています。その対応策の一つとして、テレワークがあります。
■テレワークとは
テレワークとは、tele(離れたところで)+work(働く)という単語の通り、ICT(情報通信技術)を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、主に3パターンあります。①在宅勤務 ②モバイルワーク ③サテライトオフィス です。それぞれ整理すると下記の通りです。
在宅勤務:自宅にいながら、会社に出勤している時と同様に業務を遂行する働き方
モバイルワーク:喫茶店や移動中などオフィス外でも業務を遂行できる働き方
サテライトオフィス:都内近郊や地方に設置した所属事業所外のオフィスで業務を遂行できる働き方
なぜ各企業がこのような施策を推し進めているのか、もちろん東京オリンピック開催時の通勤混乱に対する対策というのもありますが、その本質的な目的は「多様な働き方を実現」することによって、「生産性の向上」、「優秀な従業員の定着」を図るためです。
■テレワークのメリット
・通勤時間をなくすことができる
オリンピックのような大混雑が予想されるような場合でも、通勤時間また通勤時のストレ スを受けることなくすぐに仕事に取り掛かることができ、生産性の向上が望めます。
・離職率低下につながる
育児や、介護といったように通常勤務をしていたら、退職という選択をとらざるを得ない ケースでもテレワークという選択肢を用意しておくことで優秀な人材の流出を防ぐための 施策となります。
・ワークライフバランスの向上につながる
自分の時間を自分で組み立てやすくなるため、隙間時間に家事を行ったり、子育ての時間 にあてたりと仕事と私生活の両立がしやすくなります。
・BCP対策になる
大型台風や、地震などが発生し、出社が出来ないといったケースでもテレワーク可能な環 境があれば事業活動を継続してできます。
■労務上の留意点
・勤務時間等の管理
テレワーク勤務では、働いている状況が物理的に見えなくなるため、会社の実態に即した 方法で管理をする必要があります。特に始業・休憩・終業等の連絡/管理は必須で、これ にはメール連絡や在籍管理のツールを活用することで対応することが一般的です。
また、テレワーク実施日の予定を、事前に予定表等に登録/記載することにより、勤務状 況の見える化をしているところもあります。
オフィス勤務時と比べ、テレワーカーとオフィス勤務者のコミュニケーションは細やかな 情報共有がされていないと、コミュニケーションロスが発生し、業務が思うように進まな
いといった事態になります。 テレワークを行う場合には、「いつ、どこで、何をやっているのか」を情報共有できる仕 組みを構築しておくことが肝要です。
さらには、会社には安全配慮義務が課されておりますので、長時間労働とならないよう、 業務終了連絡以降には絶対に業務をしないように指導していく必要があります。
・テレワーク時の交通費の取り扱い
テレワーク時に移動をすることが想定されるので、自宅からお客様先、私用の出先からお 客様先など様々なケースでの交通費の取り扱いを整備しておく必要があります。
こういった取り扱いは社内規程内に一覧表として整理しておくと従業員に理解がされやす いと考えます。
・テレワーク時の移動時間における労働時間の考えの整理
上記の交通費の取り扱いと同様に、テレワーク勤務日に、お客様先からお客様先、自宅 から自社オフィス、私用の出先からお客様先など様々なケースの移動時間が考えられ当該 移動時間を労働時間とするか否かを整理し周知することを推奨します。
・休暇の取り扱い
テレワーク勤務を行うと決定した日にも、やむを得ず休暇を取らなければいけない状況は 想定されます。このような緊急時の連絡体制をしっかりと事前に整備し、周知しておくこ とが必要です。
・評価/処遇の取り扱い
テレワークをしたことで評価が下がってしまう。こんなことでは利用する従業員は誰一人 いなくなると思います。従いまして、テレワーク勤務時においても給与、評価方法等も含 め、通常の勤務時と同様に就業規則に則って扱うわれることが望まれます。
・その他
上記項目以外にも、安全衛生の観点や、会社としての禁止事項、テレワーク勤務時の費用 負担、テレワーク勤務申請の具体的フローなど、決める事項は様々あります。これらをよ く吟味し、テレワーク規程(ガイドライン)を社内で整備して初めて運用が可能になりま す。
■本格導入までのステップ
本格導入までのステップは、会社の状況によりさまざまだと思います。
下記は、一般的な流れです。
①目的策定/現状整理
まず導入プロジェクトを開始する際、一番大事なのは、会社としてテレワークを導入する目的を経営層としっかりとコミュニケーションをとり決定することです。これをやらずに導入しようとすると、思わぬ障害が発生したときに計画が頓挫してしまう確率が上がります。目的策定を行ったら、社内の現状(制度、労務状況、ICT環境、セキュリティ)を整理し、不足しているものを整理します。
②導入計画策定
現状整理ができたら、課題点に対してどのように解決していくかの計画を策定していきます。ここでは、本格導入をいつまでにするか決めたうえで、逆算して策定していくといいでしょう。
また、社内には、テレワークができる業務とできない業務とがあるかと思います。
そこでこの段階で社内業務の棚卸を行い、どの業務をテレワーク対象とするのか目星をつけます。この業務の棚卸はテレワーク導入に限らず、業務効率化につながることにもなりますので、社内の協力を得られるよう進めていくことをお勧めします。
③トライアル テレワークを実現するには、様々なツールを活用する必要性があります。
そこで、本番導入の前に、テレワークの効果と課題の検証をトライアルとして行うことを推奨します。期間としては3か月~6か月間行うと良いと考えます。このトライアル期間が短すぎると、イレギュラーなケースでのバグ出しができずに終わってしまうということが考えられます。
④制度・環境設定 トライアルの結果を踏まえて、社内の規程整備、必要環境の整備(ICT関連、オフィス環境等)を行います。
機材やツールの購入には当然費用が掛かります。今現時点では、テレワークを導入する会社を対象に様々な助成金が用意されていますので、活用するのも良いでしょう。
⑤普及・定着への対策
社内にテレワーク制度を定着させるためには、まず社員に内容をよく理解してもらう必要があります。その為には社内全体研修や、管理職に対する説明会などを開催し、社内理解を高めていきテレワーク制度を利用するのが当たり前という風土になるよう推進していくことが必要です。
■東京テレワーク推進センターについて
テレワーク導入を検討しているけど、どのようなものか具体的なイメージが湧かない。 といった場合にはぜひ一度実機でのデモ等を体験するのが良いと思います。
東京都では、東京テレワーク推進センターという施設を設け、テレワークの普及を促進しています。本施設では、テレワークの体験、情報収集、相談ができますので、時間が許すのであれば、足を向けてみるのも一案です。
※東京テレワーク推進センターHP:<https://tokyo-telework.jp/aboutus>
■最後に
テレワークは従業員にとって、とてもありがたい制度であると同時に、会社にとってもメリットが多いものになります。しかし、具体的に導入するとなると、検討すべき事項が多岐にわたります。そのため、社内全体で推進していくという体制を作ることが導入への近道かと思います。
2020年の東京オリンピック対策にはもちろんのこと、昨今では自然災害も多発しています。事業活動の継続を死守するためにもテレワークの導入を検討してみては如何でしょうか。
社会保険労務士 安達伸伍
中小企業にベストマッチした働き方改革を
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