top of page
執筆者の写真Gustavo Dore

【2020年版】副業・兼業における労務管理上の留意点について

副業・兼業、ダブルワーク。働き方改革関連のニュースとともに、このようなワードを耳にする機会が多くなってきたと感じている方も多いのではないでしょうか。

労働者が副業・兼業を行う目的は収入の増加、スキルアップ、保有資格の有効活用など様々です。最近ではWeb上で個人のスキルを売りに仕事をマッチングできる環境も身近にあることから手軽にフリーランスのような活動ができるようになってきています。

政府としても、2017年3月に策定された「働き方改革実行計画」では、副業・兼業の普及促進を図るという方針も示され、副業・兼業を認める方向で検討することが適当としています。

しかし、このような状況下ですが、副業を禁止している会社は依然多いのが実情です。その理由の多くは、自社での労務提供がおろそかになること、情報漏洩のリスクがあること、競業・利益相反になること、副業・兼業に係る就業時間や健康管理の取り扱いが不明瞭というものであると考えます。こういった実務上の取り扱いで不明瞭なところが多いので、労働政策審議会では、「副業・兼業関する検討会」で様々な討論が行われています。

今回は、会社として副業・兼業を認める運用としたときに、労務管理上で留意するポイントを解説致します。

1.就業時間の把握、健康管理について

労働基準法第 38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されております。また、「事業場を異にする場合」とは事業主が別の場合も含むとされています。

会社が労働時間を把握する手段として、労働者からの自己申告ということが考えられます。会社間での情報共有という方法もあるかとは思いますが実務上、現実的でないのではないでしょうか。そのため、労働者からの自己申告の正確性がとても重要になります。中には副業先の労働時間を正確に報告しない、自分自身がしっかりと把握できていないといったケースも想定されるので、自己申告をさせる際の書式などに工夫が必要です。

個人事業主や委託契約・請負契約等により労働基準法上の労働者でない者として、 または、労働基準法上の管理監督者として、副業・兼業を行う方については、労働基準法の労働時間に関する規定が適用されませんが、この場合においても、過労等により業務に支障を来さないようにする観点(安全配慮義務の観点)から、その者の自己申告により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいとされます。

また、健康管理は課題点の一つです。

現行の安全衛生法において、定期健康診断や、ストレスチェック制度、1か月の労働時間に基づいて把握した長時間労働を行っている者への医師の面接指導等を義務付けるとともに、労働者の健康状態に応じ、必要な就業上の措置を行わなければならないこととされていますが、実施対象者の選定時、複数の事業者間の労働時間を通算することとされていません。この課題については労働政策審議会にて討論中ではありますが、現状では労働者と定期的な面談の機会を設けるなど、密なコミュニケーションをとることが肝要であると考えます。

2.割増賃金について

原則的には、労働契約を時間的に後から締結した会社が、契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきこととなっていることから、割増賃金の支払い義務を負うこととなります。

そのため、日々、副業・兼業先の労働時間数の把握が必要になり、こうした厳密な労働時間の把握は実務上かなり難しいものになります。

このような煩雑さかが、副業をよしとしない会社が多くなっている要因のひとつです。

この割増賃金の考え方についても現在政府で検討がなされているので、要注目です。

3.社会保険、雇用保険の適用について

■雇用保険について

同一の事業主の下で、

①1週間の所定労働時間が 20 時間未満である者

②継続して 31 日以上雇用されることが見込まれる者

について加入義務が生じます。

同時に複数の会社に雇用されている人が、それぞれの会社において上記要件を満たす場合には、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。つまりメインで就労している会社で雇用保険は加入します。

■社会保険(厚生年金保険及び健康保険)

同時に複数の事業所で就労している人が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所及び医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。

その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)することになります。(二以上事業所勤務届)。

4.労災給付について

労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するものであるため、その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定されます。

そのため、仮に賃金額が低い、副業・兼業先で業務災害に被災し、入院を余儀なくされ、働くことができなくなった場合等には、給付額が低額になることがある、といったリスクがあるので注意が必要です。

5.確定申告について

会社員であれば、通常年末調整を行うことで、確定申告は不要です。

ただし、副業で年間20万円以上の所得を得ている場合には、確定申告が必要になります。このような情報も一従業員だと見落としがちなので、会社からアナウンスをしてあげることが必要になってきます。

最後に、今回解説した論点は副業・兼業に関する留意点の一部です。この他にも労務管理上の実務として、考慮しなければならないことは多々あります。また、現状政府からも実務上の明確な取り扱いが示されていることが少ないのが実情です。そのため、副業・兼業に関して、全面解禁とするのではなく、しばらくは“許可制”もしくは“届出制”とすることが賢明ではないかと考えます。そのうえで、労働者と十分にコミュニケーションをとり、どこまでの副業を認めるのか、どのような管理をしていくのかを決めた上で進めていくことをお勧めいたします。

執筆:安達伸伍 労務・年金相談安達事務

閲覧数:5回0件のコメント

Comments


bottom of page