1.はじめに
フリーランスで活躍する方は年々増えてきています。新型コロナウイルスをきっかけにリモートワークになり、通勤時間が短縮されたこと等で生まれた余剰時間を活かして副業でフリーランスになる方も増えているようです。
ただ、フリーランスなど自由な働き方が広がる一方で、フリーランスになった場合の雇用保険の取扱いについてはあまり知られていません。今回はフリーランスと雇用保険の関係について解説していきます!
2.雇用保険とは?人を雇用したらフリーランスや個人事業主でも従業員を加入させましょう。
雇用保険とは、「国が労働者の生活や雇用の安定や就職促進等のために管掌している労働者のための保険」で、労災保険と合わせて労働者を雇う場合には事業者に加入が義務付けられている強制保険制度となっています。雇用保険では失業時にもらえる失業等給付の支給や、育児休業や介護休業中に所得補償としてもらえる給付の支給、就職に必要となる知識やスキルを身につけるための教育訓練給付金などが支給されます。
雇用保険はいわゆる株式会社といった法人だけでなく、フリーランスや自営業といった個人事業主であっても、労働者を1人以上雇用する場合にはかならず加入が必要なものです。
そのためフリーランスの方も、誰かを雇用したら加入するべきもの!として必ず覚えておきたいところです。
ただ、雇用保険は、労働者であれば加入が原則ではありつつ、一定の条件を満たさない短時間労働者、法人の代表や同居の親族などは対象とならないため注意が必要です。
なお一定の条件を満たさない短時間労働者については具体的には次のとおりとなります。
(1)1週間の所定労働時間が20時間未満であること
(2)31日以上引き続き雇用されることが見込まれない者であること
そのため、10時間しか勤務しないといった労働者であれば雇用保険は加入は必要ありません。(但し、労災保険は短時間等の要件はありませんので加入が必要です。)
3.フリーランス自身や個人事業主本人は雇用保険の被保険者になれるの?
2で人を雇用したらフリーランスや個人事業主であっても、従業員については雇用保険に加入させる必要があると述べましたが、ではフリーランス本人や個人事業主本人は雇用保険の被保険者になれるのでしょうか?
基本的には上述のとおり雇用保険は「国が労働者の生活や雇用の安定や就職促進等のために管掌している労働者のための保険」ですので、労働者のものです。そのため、使用者側であるフリーランスや個人事業主は対象になりません。
(※ただ、いわゆる偽装請負といった問題があります。偽装請負とは、名目上は業務委託契約を結んでいるものの、実態が指揮命令を受けながら通常の労働者のような取り扱いを受けている場合、実態は労働者であるとして、労働者であれば通常受けられる社会保障を受けられる余地はあり、労働者性が認められれば、雇用保険の加入も認められる余地はあります。)
4.会社を退職後にフリーランスになる場合、失業保険は受給できる?
3で述べたとおり、基本的にフリーランスや個人事業主本人は雇用保険に加入することができません。
そのため、たとえフリーランス・個人事業主が廃業したとして、どこか企業に再就職のための活動をする・・・といった場合でも雇用保険から失業保険を受けることはできません。
では、フリーランスになるために、雇用されていた会社を退職した場合には失業保険はどうなるのでしょうか。
雇用保険が対象とする失業保険は、就職する意思と能力があり、積極的に仕事を探しているのにも関わらず、就業に就いていない人がもらえる給付金です。
そのため、会社を退職後にフリーランスとして働く場合には厳密には失業状態ではありませんし、仕事を探している求職者でもありません。そのためこちらも原則は失業保険の対象にはならないと考えられます。
ただ、代わりに再就職手当というものがあります。再就職手当とは、失業状態にある人が早期に再就職した際に受け取れる失業保険のことです。
再就職手当はフリーランスや個人事業主になった場合でも支給されます。
しかし、受け取るためには主に下記のような要件を満たす必要があります。
①7日間の待期満了後の事業開始であること
②事業開始の前日までに失業の認定を受け、その後の基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
③1年を超えて勤務することが確実であると認められること
退職後にフリーランスになる場合でも、失業保険のうち再就職手当については対象になるということを頭に入れておきましょう。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。フリーランスや個人事業主でも人を雇えば従業員について雇用保険の加入は必要といったことを述べてきました。一方、「雇用」保険というこの名称からもおわかりいただける通り、誰にも雇われていないフリーランス本人については原則雇用保険の対象にならないこともお分かりいただけたかと思います。
様々なセーフティーネットから外れてしまうフリーランスではありますが、労災保険についてITフリーランスが加入できるようになったりと、フリーランス保護の仕組みは少しずつ整ってきています。今後の政府の動きにも注目したいところです。
【執筆者プロフィール】
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理ーー初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
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