1.キャリアアップ助成金(正社員化コース)を知っていますか?
全ての企業に共通の悩みの一つとして、「優秀な人材の確保」が挙げられると考えています。すでに知名度のある大企業であればまだしも、 そうでないスタートアップやベンチャー企業といった会社であればなおさらこの悩みは大きくなる傾向にあるでしょう。
さて、雇用保険の雇用安定事業の中で行われている「キャリアアップ助成金」というものをご存じでしょうか。「キャリアアップ助成金」は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進する助成金です。「正社員化コース」、「賃金規定等改定コース」、「健康診断制度コース」等いくつかのコースが設けられており、全て非正規雇用労働者に対する処遇改善の取り組みを行った事業主が申請対象となるものです。
複数あるコースの中でも特に人気があるものとしては、「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」があります。「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」は、 中小企業やベンチャー企業が良い人材を確保して戦力になっていただくための自然な流れの中で、比較的スムーズに申請が実施できると考えています。
ただし、助成金の活用にあたっては、事前に準備しなければならないものや押さえておかなければならないポイントがいくつもあります。本日は「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」に関して解説します!
2.「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」に関する基本的なルール
「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」は、就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定した制度に基づき、有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換または直接雇用した場合に助成金が支給されるものです。
助成金の活用にあたっては、転換または直接雇用の実施日の前日までに「キャリアアップ計画」を管轄ハローワーク経由で労働局に提出することが必要です。労働局にて受領印が押された日以降、「キャリアアップ計画」が有効となるため、期限に余裕をもって提出しなければなりません。また「キャリアアップ計画」の作成にあたっては、労働者の過半数を代表する者もしくは労働組合等の意見を聞いて作成することが必要です(対象労働者の記名欄があります)。
3.キャリアアップ助成金(正社員化コース)が人気である理由
前段にて、『キャリアアップ助成金(正社員化コース)」は、 中小企業やベンチャー企業が良い人材を確保して戦力になっていただくための自然な流れの中で、比較的スムーズに申請が実施できる』とお伝えしました。
この助成金を利用するにあたって、対象者の有期雇用期間が6ヶ月以上3年以内必要となります。この有期雇用期間の中で、事業主側からは、対象者が自社に合っているか、戦力になっていただけるか等を見極めることができます。
最初から正規雇用や無期雇用で入社となる場合、万が一のミスマッチがあった場合でも企業側が雇用契約の終了を行うことは大変難しくなっています。
4.制度を活用する上での注意点
ただ、もちろんこの制度を利用するにあたっての注意点もございます。 主な注意点を3つご紹介します!
①対象者に関する注意
まず、下記に該当する方は対象にできません。
・自社と密接な関係のある会社で正社員として雇用されたことがある ・業務委託をしていた等、請負・委任の関係にあった方 ・役員であった(取締役、合名・合資・合同会社等社員、監査役、社団・財団役員) ・自社の事業主または取締役の3親等以内の親族 ・定年までの期間が1年を切っている方 ・自社と密接な関係のある会社ですでに定年を迎えた方
(1)~(3)は転換・直接雇用日前日から過去3年以内を対象期間として確認します。業務委託者を正社員化する時は「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」の対象とならないという点はご注意いただきたいと考えます。
②賃金UP要件に関する注意
本助成金では対象者の転換後6か月の賃金を、転換前6か月の賃金と比較して、取組日時点の本助成金のルールを満たすように増額させることが必要です。
(基本給、および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額を、決められたパーセンテージ以上UPさせることが必要です。)
ただ一方で、初めから助成金ありきで有期雇用時の待遇を不当に下げておくといった対応はそもそもの助成金の趣旨に反しますのでやめましょう!
諸手当については、賃金総額に含められるものと含められないものがあります。名称の如何を問わず、実費弁償的な手当や毎月の状況により変動することが見込まれる手当は除かれます。また転換後の賃金に含まれる手当は、ルールが就業規則に明記されているものに限ります。(転換前の諸手当は、就業規則等への記載有無にかかわらず含まれるということになります)。
基本給ベースで賃金UP要件を満たす、かつなるべく賃金総額で賃金UP要件を満たす、ということが労働者有利であり申請の確度を高めるとは考えますが、当然ながら審査に関する詳細は公表されていないので結果は審査次第とはなります。
③今後のルール変更に関する注意
2022年2月、厚生労働省よりキャリアアップ助成金に関する令和4年度4月~の変更点の概要資料が示されました。正社員化コース・障害者正社員化コースでは、有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換の助成が廃止されます。また、令和4年10月1日以降の正社員転換に適用になる変更点として、以下2点があります。
(1)正社員定義の変更:「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正社員への転換が必要となります。
(2)非正規雇用労働者定義の変更:「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されている非正規雇用労働者の正社員転換が必要となります。
今後はよりルールや審査が厳格化する方向であると予想します。申請にあたっては必ず事前確認いただきたい内容です。助成金の趣旨に反するような不自然な流れでの受給は今後より厳しくチェックされていくのではないかと予想されます。
5.効果的に正社員化および処遇改善の取り組みを
有期で入社した方を正規転換することで、対象者の意欲や能力向上にもつながり、事業の生産性を高めることになると考えています。
基本ルールや注意点を事前にしっかり押さえておくことで中小企業やベンチャー企業であっても比較的取り組みやすい助成金であると考えますので、ぜひ申請にチャレンジください!
【執筆者プロフィール】
寺島有紀 寺島戦略社会保険労務士事務所所長 社会保険労務士
一橋大学商学部 卒業 新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかるテレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。
代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。
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