1. はじめに
「同一労働同一賃金」という言葉をご存じでしょうか。
2020年4月から、すでに大企業ではこの「同一労働同一賃金」が義務化され、さらに中小企業においても2021年4月から義務化されます。
※なお、中小企業とは、資本金・出資総額3億円(小売・サービス業は5千万、卸売業は1億)以下の企業または従業員数300人(小売は50人、卸売・サービス業は100人)以下の企業のことを言います。
「名前だけは聞いたことがあるが、いまいちよくわからない・・・」といった方も多いかもしれません。
今回はこの「同一労働同一賃金」について社会保険労務士が解説していきます!
2. 同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは、端的にいえば、「同じような仕事をしているのであれば、雇用形態が正社員であろうと、契約社員であろうと、アルバイトであろうと、同一の賃金を支給する」という考え方です。
労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法が今般改正され、「職務の内容や責任の程度、異動・転勤の有無・範囲などを踏まえ、賃金や手当内容だけではなく福利厚生、教育研修等を含めたすべての待遇を均等・均衡にしなければならない」という旨が規定されました。
しかし、これまで多くの日本企業において「契約社員には賞与は支給しない」「有期雇用者は福利厚生はなし」といった、無期雇用の正社員と、有期雇用者の間で非合理的な差別が多く見られ、現在でもこのような取り扱いが継続している企業も多いのではないでしょうか。
また、現在、日本において被雇用者に占める非正規の従業員の割合は40%程度と非常に多くの方が非正規雇用の形態で就労している現実があります。
正社員と、契約社員やパートタイマーといった非正規雇用者の間にある、非合理的な差別を解消することは、非正規雇用の方の待遇の改善につながること、さらに彼らのモチベーションを高め、ひいては企業の生産性の向上につながるという狙いをもって、政府はこの同一労働同一賃金の施策に取り組んでいるのです。
3. どういった取り扱いが禁止されるの?
では、実際に同一労働同一賃金の考え方に照らし合わせると、どのような取り扱いが禁止されるのでしょうか。具体的な事例を通してみていきましょう。
事例1: A社の正社員の山田さんと、契約社員の田中さんは、それぞれ上半期の営業成績が同じであった。
しかし、A社では、半期ごとの賞与は正社員のみ対象としており、山田さんには支給したが、田中さんには支給しなかった。
A社の賞与に関する規定には「会社の業績への従業員の貢献度合いで支給」と記載がある。
⇒賞与については会社の業績への従業員の貢献度に応じて支給するとする企業も多く、こうした事例は少なくないかと思います。
この事例1の場合、同じ業績であるにもかかわらず、雇用形態が正社員でないからという理由だけで支給しないとするのは、同一労働同一賃金の考え方に照らし合わせると、問題がある代表的な事例です。
この場合田中さんにも支給することが求められます。
事例2: B社では、社員の父母や祖父母が亡くなった時や、社員自身の結婚等のために利用できる慶弔休暇を制度として設けている。この慶弔休暇の対象は正社員のみとしており。契約社員やアルバイトなどは対象外としている。
⇒同一労働同一賃金ガイドラインにおいて、慶弔休暇についても、差別的な取り扱いは禁止されています。ただ、現在、契約社員については特別休暇は付与しないと就業規則上定めている企業も多いのではないでしょうか。
こうした特別休暇について、一律有期雇用者には認めないとすることは、同一労働同一賃金の考え方に照らし合わせると、こちらも問題がある代表的な事例です。
ただ、一方で、週2日のシフトのアルバイトさんがいた場合で慶弔休暇を取得したいとなった場合、休日を振り替えるということが可能かと思います。
いわゆる正社員の場合週5日、フルタイム勤務という特性上、勤務日を振り返ることが難しいということでこのような特別休暇を付与していることと思います。
そのため、一律非正規雇用者には慶弔休暇を付与しないとすることは合理的ではありませんが、たとえば「週の労働日数が少なくシフト等で労働日が調整できる者については付与しない」とすることは、合理的です。
このような取り扱いは許容されるということが政府の同一労働同一賃金ガイドラインにも記載がありますので、該当企業については慶弔休暇の対象を就業規則等において上記のよに変更すべきかと考えます。
4. 終わりに
いかがでしたでしょうか。同一労働同一賃金については、これまで日本企業においては慣行的に当たり前に行われていた取り扱いが多くなっており変革を求められる企業も多いものと考えます。
しかし、コンプライアンスの観点からもそうですが、今後人手不足時代において、隙間時間等で働いていただけるパートタイマーや有期雇用者の方は、いまや企業の重要な戦力です。
合理的な制度設計は、働く従業員にとって納得性が増し、モチベーションも向上するものと考えます。これが、ひいては企業の採用力にも結び付き、競争力強化にも結び付くのではないでしょうか。
法改正への対応にとどまるというのではなく、今一度自社の各労働条件に不明瞭、不合理な点がないかを洗いだしたりと、自社の制度を見直すきっかけにしてはいかがでしょうか。
【執筆者プロフィール】
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
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