1.はじめに
企業の皆様から、「マンパワーの不足」「育児・介護といった、従業員のライフイベントと就業の両立」についてご相談頂くことも多いです。これらの悩みは、まさに我が国が抱える課題「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」と直結しています。
国の抱える少子化、高齢化といった問題のもと、企業として生産性や売り上げをアップさせ、恒常的に従業員の雇用を維持するためには、「就業機会の拡大」「意欲・能力を存分に発揮できる環境」の整備が不可欠です。
こういった背景から、2019年に働き方改革法(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が成立しましたが、こちらと同時に「働き方改革推進支援助成金」という助成金が創設されたことはご存じでしょうか?
この助成金は、生産性を高めながら労働時間の縮減等に取り組む中小企業・小規模事業者や、傘下企業を支援する事業主団体のための助成金です。中小企業における高残業の見直し、年休取得推進等、労働者の就労環境の改善を主な目的としています。
本日はこの「働き方改革推進支援助成金」を解説します!
2.各コース共通の注意点 ①早めの動きと計画的な実施が必要です!
「働き方改革推進支援助成金」は毎年度内容の見直しがなされますので、詳細は厚生労働省の最新情報をご確認いただく必要があります。2022年度は4コースの設置があり、自社にマッチするいずれか1コースで助成金をいただくことになります。
4コースに共通の注意点としては、いずれも「計画的な申請」が必要になるという点が挙げられます。助成金申請までの流れとして以下の対応が必要です。
①「交付申請書を申請」(例年11月末まで。最寄りの労働局雇用環境・ 均等部(室)へ)
②「交付決定後、提出した計画内容に沿って計画を実施」(実施は例年1月末まで)
③「助成金の申請」(計画終了30日後もしくは2月上旬までの早い方が締切、労働局へ)
そのため、年度の途中から「助成金申請をしたい!」という場合は速やかな行動が求められますし、そもそも助成金は国の予算の範囲内で実施がなされているため、交付申請書の配布が11月末を待たずに早めに打ち切られてしまうこともございます。
そのため各社様においてはお早めの検討が必要です!
3.各コース共通の注意点 ②実施内容に応じた経費(上限あり)が助成されます!
助成される内容、上限額については各コースによって異なりますが、
働き方改革推進支援助成金は、考え方として「中小企業・小規模事業者が就労環境の改善のためにかかった経費を助成」するものです。
例えば、労働時間短縮・年休促進支援コースでは、以下のような規定とされています。
以下のいずれか低い方の額
(1)成果目標1から4の上限額および賃金加算額の合計額
(2)対象経費の合計額×補助率3/4
(2022年度内容)
そのためリーフレットに上限額として「150万円」「50万円」といった記載があっても、「かかった経費の3/4」の金額の方が小さければ、こちらが支給額になります。
さらなる注意点として、助成対象となる取り組みとして下記のような記載がありますが、
①労務管理担当者に対する研修
②労働者に対する研修、周知・啓発
③外部専門家によるコンサルティング
④就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤人材確保に向けた取り組み
⑥労務管理用ソフトウェア、労務管理用 機器、デジタル式運行記録計の導入・ 更新
⑦労働能率の増進に資する設備・機器などの 導入・更新
(労働時間短縮・年休促進支援コースの例)
こちらについても取り組み別に上限額が決められています。
①~⑤の取り組みにかかる経費は10万円が上限となりますので、助成金額として7万5千円が最大です(さらに36協定の作成・変更、規程や労使協定の届出にかかる経費は1万円(助成金額として7千5百円))。
この「取り組み別の上限額」の規定を知ったうえで取り組まないと、「助成金の対象になるから」といって上限を超えた経費をかけて取り組みを実施してしまうことにもなりかねず、よく確認のうえ、申請のご検討を頂きたく考えます!
4.どのようなコースがあるか
働き方改革推進支援助成金の4コースの概要は以下の通りです。
1-働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)
労働時間短縮・年休促進支援コースは、中小企業における労働者の時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の取得促進に向けた環境整備を行うことを目的として、外部専門家によるコンサルティング、労務 管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部が助成されるものです。従業員の高残業、年休未取得に悩む企業様に特にお勧めです。
2-働き方改革推進支援助成金 (勤務間インターバル導入コース)
勤務間インターバル導入コースは、中小企業における労働者の健康と福祉を確保するために始終業の間隔を一定確保する等、労働時間等の設定の改善の推進を図ることを目的としています。勤務間インターバル制度の導入やその定着を促進させるため、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部が助成されるものです。勤務間インターバル制度の導入は努力義務ではあるものの、従業員の生活時間や睡眠時間が確保でき、健康増進や離職率低下につながるとみられます。
3-働き方改革推進支援助成金 (労働時間適正管理推進コース)
労働時間適正管理推進コースは、労務・労働時間の適正管理を推進するため、外部専門家によるコンサルティング、 労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部を助成するものであり、中小企業における労働時間等の設定の改善の推進を図ることを目的としています。勤怠システムをこれから導入する、労務管理担当者に十分な知識がないといった、これから本格的な労務管理を始めるといった会社様にお勧めです。
・働き方改革推進支援助成金 (団体推進コース)
団体推進コースは、中小企業事業主の団体やその連合団体(「事業主団体等」)が、その傘下の事業主のうち、労働者を雇用する事業主(「構成事業主」)の労働者の労働条件の改善のために、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取組を実施した場合に、その事業主団体等に対して重点的に助成金を支給するものです。構成事業主の半数に対して、取り組みの実施または取り組み結果の活用が求められますので、働き方改革推進の効果を大きく実感することができると考えます!
支給対象となる事業主団体等は、法律で規定された企業組合、協業組合、商工組合、一般社団法人や一般財団法人、その他の一定の要件に該当する事業主団体、共同事業主となります。
加えて、下記のような要件も問われますので、検討時によく確認が必要です!
・3事業所以上で構成される(共同事業主は10事業所以上)
・1年以上の活動実績がある
・事業主団体等が労働者災害補償保険の適用事業主であり、中小企業事業主の占める割合が、構成事業主全体の2分の1を超えている
以上4コースのうち、自社の課題解決に最適なコースをご検討いただきたく考えます!
5.終わりに
お伝えしてきた通り、働き方改革推進支援助成金は、各社が課題解決のために実際に要した費用の一部が助成される助成金です。4コースに共通する点として、本助成金の経理処理は通常の商取引・商慣行とは異なる考え方がなされる場合があります(例えば、帳票は助成金額確定の日の属する年度の終了後5年間の保管義務、本取得財産等の処分により収入が発生する場合等は収入の全部又は一部を国に納付する等)。ルールに沿って、実費弁済の考え方、改善事業とその他の事業との区分管理、時系列での資料整理を行っていく必要があります。
また不正受給に関しては厳しく取り扱われます。助成金の不支給や返還だけではなく、対象事業主が5年以下の懲役または100 万円以下の罰金に処せられることもあります。
何か不明な点があれば、最寄りの都道府県労働局に照会して進めることがスムーズです。
ただ、これから働き方改革に取り組みたいという中小事業主・小規模事業主には非常に力強い助成金といえます!ぜひ自社にあったコースの検討を進めていただけたら幸いです。
寺島 有紀 寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。 新卒で楽天株式会社に入社後、 社内規程策定、 国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に動務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、 社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、 国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「I POをめざす起菜のしかた・経営のボイント いちばん最初に読む本」 (アニモ出版) が発売されました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4897952417/ref=cm_sw_em_r_mt _dp_TQ0xFb39THS7W
その他:
2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。 https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4297114488/gihyoip-22
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