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執筆者の写真Gustavo Dore

採用活動本格化前に押さえておくべき、採用の基本とポイント

1、はじめに

2021年も終わりに差し掛かろうとしています。年明けはいよいよ採用活動に本腰を入れる、といった会社様も多いのではないでしょうか。

コロナ禍の採用活動も3週目に入りますが、現状、ようやく感染が落ち着くのか、また感染の波がやってくるのかどうか、といった見通しが不透明です。各企業においては、活動を対面中心に切り替えていくのか、今後ともオンライン中心に進めていくのか、判断が難しいと考えます。

日本の労使慣行上、新卒一括採用というものが採用の中心に根付き重要視されているということもあり、どこの企業も多大な費用と時間をかけて新卒採用活動に臨みます。この背景には、長期雇用慣行と、一度採用すると解雇が難しいという消極的な理由が挙げられます。

ただし、採用活動に慎重になるあまり、聞いてはいけない質問をしてしまう、集めてはいけない情報をあつめてしまうなどして、企業のイメージを落としてしまっては元も子もありません。

採用の法的な位置づけや、最低限押さえておくべきポイントは、対面でもオンラインでも変わりません。今回は採用にまつわる、知っておきたい基本事項を解説します!

2,企業に認められている「採用の自由」

労働者と使用者の関係は雇用契約を締結することから始まります。この労働契約締結のきっかけは、通常は使用者による募集に対して労働者が応募し、使用者が面接や筆記試験などで選考を行った上で採用を決定する、という形がとられることが多いです。

この採用のプロセスの中で「内々定」や「内定」という状態が生じ、また採用後も本採用に至るまでに「試用」という期間が設けられることもあります。

ここで確認いただきたい点はあくまでも労使は対等、ということです。法的には雇用関係は契約関係の一つとして捉えられており、雇用関係に入る時には使用者にも労働者にも契約締結の自由が認められています。労働者に、その企業に入社する自由が与えられているのと同様、会社にも、その人を採用するかどうか決定する自由があります。この雇用契約関係の自由を会社側から見たものが「採用の自由」というものです。

労働者にとっては、どの会社に所属するかは会社は人生を左右することもある重要な事項です。その一方で、企業も日々厳しい競争にさらされている、利潤追求組織です。そのため誰を採用するかということは非常に重要になります。採用の自由により、会社は誰をメンバーに迎えるか、どのような労働条件で雇うか、といったことは法に触れない範囲で、原則として自由に決めることができます。

3,企業の採用に関する法的な制約

ただし企業に対して採用の自由が認められているといっても、企業が何をしてもいいというわけではありません。法律には採用にまつわる制約が多くあり、主要なものをピックアップします。

・性別に関わりなく均等な機会を与えなければならない(男女雇用機会均等法第5条)

・障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければならない (障害者雇用促進法第34条)

・原則として年齢制限を設けることはできない(労働政策総合推進法第9条)

・労働組合に加入しない、労働組合から脱退すること(黄犬契約)を雇用の条件としてはならない(労働組合法第7条)

そのため、労働者側から見た「職業選択の自由」、企業に保障されている「採用の自由」は概念としてぶつかります。そのため双方の思いを考慮しつつ、公序違反または不法行為にならないように勧めていくのがポイントです。

4、採用実務を進めるうえでのポイント

場を和ませるつもりで出身地について聞きたい、家族構成について聞いてみたいと考えることもあるかと考えますが、出身地や家族構成については「本人に何の責任もない事項」になります。もし本人が採用試験に落ちてしまった場合、「あのときの、あの話題のせいで落ちたのでは、、」と感じてしまうこともありえます。一緒に仕事をする仲間を募集するにあたり、適正や能力に関連の無い質問をするのはそもそも不適切と考えていただく必要があります。

厚労省WEBサイト「公正な採用選考の基本」、同冊子「公正な採用選考をめざして」等では、以下が求められています。

・応募者に広く門戸を開くこと

・本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準を設ける

・就職差別につながるおそれのある事項の質問をしない(家族や出身地等本人に責任のない事項、愛読書や思想信条にかかわることなど、本来自由であるべき事項)

思想、信条のほか、年齢、性的思考、外見や容姿、家族構成、血液型など、法律上明文で強行的に禁止されていない事由による採用差別の違法性については、ケースバイケースで適法か違法かを判断していくことになります。

日本の判例は、長期雇用慣行や解雇の困難さを背景にある程度使用者側に立っており、本人の思想や信条による採用拒否を認めた判例も存在します。しかし、万が一採用を巡って応募者と争いになった場合、社会的イメージを大きく損なってしまったり、損害賠償につながったりと、思わぬダメージを受けることもありえます。

そのため、会社は上記ガイドラインや法令の内容を遵守しながら、あくまでも本人の業務適性や能力を重視して採用活動を行うのがポイントです。なお職業安定法では、採用業務等の目的の達成に必要な範囲内で、対象者等の個人情報を収集、保管、試用しなければならない旨が規定されています。

また以下事項の情報を収集することは職業安定法違反につながります。

・人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地そのほか社会的差別の原因となる恐れのある事項

・思想および信条

・労働組合への加入状況

その他の個人情報の収集も、本人の同意を得て行うことが原則です。採用にまつわる違反行為は、職業安定法に基づく行政指導や改善命令の対象となる可能性があります。改善命令に違反した場合は罰則が課される場合もあります。

5、おわりに

上述の通り、注意しなければいけない事項も多い一方で、採用活動は一個人と企業が非常に距離を縮めることができる、企業にとっての大きなチャンスです。人材獲得のためにも、企業イメージの向上のためにも、ルールを守って採用活動を行い、企業の飛躍につなげてほしいと考えます!

【執筆者プロフィール】

寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。


その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。


2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理ーー初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。

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