1.はじめに 今般のコロナ禍により雇用情勢は悪化しています。 厚生労働省の調査によれば、今年1月末から8月末までに解雇や雇い止めになった方は約5万人いるということです。また、9月1日に発表された労働力調査によれば、7月の完全失業率は2.9%となりコロナ前よりも悪化しています。 このような現状で、働く方にとっても企業にとっても気になる点である「解雇」について今回は解説していきます。
2.解雇の種類とは? 解雇とは、会社からの一方的な「労働契約の解除」です 従業員にとっては、会社からなされる一番重い処分となります。そのため従業員の解雇が有効となるためには厳しい条件が課されています。 特に日本は諸外国に比べても、労働者保護が強く、解雇が簡単にできるような仕組みにはなっていません。 また解雇にはいくつか種類があります。
1.懲戒解雇:会社での不正行為や就業規則違反等により会社の秩序を著しく乱した労働者に対して、制裁として行われる解雇の種類です。 具体的には、下記のようなものが代表的な懲戒解雇の事由として挙げられます。 ①横領、傷害等刑法に触れるような行為があった場合 ②雇い入れ時に経歴詐称があった場合 ③2週間以上正当な理由なく無断欠勤が続き出勤の督促にも応じない場合 ④転勤の拒否等重要な業務命令の拒否
2.普通解雇:懲戒解雇と区別されて使われる概念ですが、労務提供ができない又は不完全な労務提供しか提供されないといった労働者側の債務不履行がある場合に行われる解雇の種類です。 具体的には、下記のようなものが代表的な普通解雇の事由として挙げられます。 ①能力不足、勤務成績不良 ②心身の障害、病気、怪我等業務に堪えられない場合 ③業務上の指示、命令に従わない、チームワークを乱す等組織不適合の場合一般にローパフォーマーなどになされるのがこの普通解雇です。
3.整理解雇:経営不振や天災事変等で、事業継続が不可能となったり、事業の縮小等を行う必要が生じた場合に、余剰人員の整理のために行われる解雇です。
このように解雇には種類がありますが、上述のとおり解雇は会社からの一方的な労働契約の解約です。そのため、正当な理由のない解雇は「解雇権を濫用している」ものとして無効になります。
3.解雇権の濫用って? 労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という記載があります。 つまり、解雇は①客観的に合理的な理由があること②社会通念上相当である、という2点が必要とされています。 ①客観的に合理的な理由があること とは? 客観的というのは第三者からでも解雇の原因となる内容を確認することができるということです。客観の反対語は主観になりますが、経営者が主観的に「解雇が必要である」と判断するだけでは足りないのです。 つまり、だれが見ても、解雇となっても仕方がない、と判断されるような「客観的な証拠」が必要となります。
また、「合理的な理由」に該当する事項としては例えば、次のようなものが考えられます。少し能力が足りない、ちょっと協調性がない、といったものではなく著しく能力が不足しているといったことが必要とされています。 ・労働者の著しい能力不足 ・労働者の著しい協調性不足 ・労働者の著しい勤務不良 ・労働者の著しい勤務態度不良や重大な企業秩序違反 ・労働者の不法行為や反社会的行為
②社会通念上相当 とは? ①のような合理的な理由があったとしても、1回限りのミスで解雇になるということは一般的に「やりすぎ」と判断されるでしょう。つまり事前の会社の指導や、教育があったのかなども判断基準となります。 また、例えば能力不足の社員がいたとしても、通常達成できないようなノルマを課されていて「能力不足である」というようなことも、社会通念上相当とは言えません。 このように、解雇に関してはこのような強い規制があり、これらは解雇権濫用法理と呼ばれています。 日本の雇用システムでは解雇が難しい、ということはどこかで聞いたことがある方もいるかもしれませんが、解雇権濫用法理がまさにその理由と言えます。 解雇は、漫画やドラマで見るように「はい、クビ!」と、簡単にできるものではなく、必要なプロセスを経て、慎重な判断の結果なされなければ、無効となってしまうものなのです。 労務担当者であれば安易な解雇を行わないよう必ず覚えておきたい論点ですし、企業で働く方についても、覚えておくと心強い知識となるでしょう。
4.解雇予告手当とは?
また、解雇に関連して、解雇予告という概念があります。 解雇を行う場合、「解雇予告」を少なくとも30日前に予告をしなければならないとされています。もし30日前に予告をしない場合、30日分の平均賃金を支払わなければなりません。平均賃金とは、「算定事由発生日以前3か月間の賃金の総額÷算定事由発生日以前3か月間の総日数」で計算されます。 企業にはこうした解雇予告手当の支払い義務があるため、もし即日解雇を会社から言い渡された場合には30日分の平均賃金を支払ってもらうことができます。 なお、この予告日数は1日について平均賃金を支払った分だけ日数を短縮することができます。
(※一部懲戒解雇等の際には、労働基準監督署の認定を受けることで解雇予告手当が不要となるケースもあります。) こちらも覚えておきたい論点です。
5.終わりに 今般のコロナ禍で雇用不安が広がっています。企業の業績も苦しいところもあるかもしれませんが、労働者を解雇するという事は簡単なことではありません。 どうしても解雇せざるを得ないと、いうときでも、社会保険労務士などの専門家に相談をしながら慎重に進めていくことをお勧めします。
【執筆者プロフィール】
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
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